壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

Theピーズ 煤けた青春の果て

酔った勢いで初めてブログを作ってみた。
そしてTheピーズというバンドについて書いてみたいと思う。
それはこれまでの人生で繰り返し行われてきた、愛するバンドとの「別れ」がまた近づいているからである。

Theピーズは日々を生き延びることそのものをロックンロールにしてきたバンドだ。
世界を憂うでも誰かを鼓舞するでもなく、個人的な諦観や投げやりな気持ちをひたすら掘り下げたVo.& Ba.の大木温之(はる)という稀代のマイナーポエットによって紡がれた歌詞。
演奏が始まった瞬間に理屈ではなくただただ単純にロックのカッコよさを感じさせてくれるギター、ベース、ドラムの最小編成3ピースサウンド。
この躁鬱のような組み合わせの楽曲を積み重ね、ピーズは活動休止を挟んで30年もの月日を転がり、そして私は生かされてきた。
様々な苦難を乗り越えがら現在のメンバー編成になってすでに15年経つこのバンドは、これからも年十数本のライブと会場限定シングルの発表を繰り返しながら細々と、しかし当たり前のように生き続けてくれると思っていた。

Theピーズは今年、結成30周年記念の武道館公演を6/9に行うことを発表した。

そのニュースを耳にした瞬間、ついに行われる晴れ舞台への喜び以上に大きな不安を感じた。
6/9という日がTheピーズの「命日」なってしまうのではないか、という想いである。

これまで好きなバンド、例えばフラワーカンパニーズやコレクターズが武道館公演を発表した時は心の底から嬉しかった(syrup 16gを除く)。
それはバンドのそれまでの歴史を振り返り、そして武道館の先もバンドが続いていくことを確認するための盛大なお祭り、通過点として開催されてきたからである。
しかしTheピーズの武道館は「通過点」ではなくどうしても「集大成」そして「終着駅」のようにしか感じられなかった。
25周年の日比谷野音発表の時はこんな気持ちにはならなかった。
『実験4号』という曲に、確かに未来が昔にはあった、という歌詞があるがその通り野音の先の未来が強く感じられたからである。
ただ今回の武道館はそれが見えなかった。
それは漠然とした不安だが、この気持ちをどうしても拭い去ることができなかった。
なぜ素直に喜べないのだ、そこまでネガティブになる必要もなかろうと自分自身感じながら日々を過ごしていたが、
Theピーズのインタビューが載った音楽と人という雑誌を手に取った時その不安は現実のものとなった。

「これ、みんなせーせーできるチャンスだと」
「6/9の次の日から、もうバンドやらなくてもいいと思ってる。これは解散じゃないけど、当然活動停止だと思ってる」
「ここでやらなきゃいけないんだ。やれるだけのことをやれる、最後のチャンスがここなんだよ」

インタビュー中のはるの発言から、Theピーズは武道館をある意味の「死に場所」としてとらえていることがはっきりと分かる。
停滞した日常から一気に劇的な最終回を迎えるため、まるで10代の若者ように明日なき暴走を始めようとしている。

この記事を読んでかなり落ち込んだが、同時に私がいかにTheピーズのことを誤解していたかを確認することができた。
Theピーズは一般的なブレイクといった概念をとうの昔に振り払い、ただ今のメンバーでバンドを続けていくこと第一目標としているものだと思っていた。
現状を受け入れ、他愛無い夢を切り捨て、外の世界と折り合いをつけることが出来る大人になったのだと思っていた(はるさん健康のためにお酒まで止めてるみたいだったし)。
しかし、理想の音像やかつて描いた夢からズレて行くことへの不安や、ロックンロールバンドへの純粋な憧れを捨てることができないまま、バンドはずっともがいていた。ただ生きているだけでは満足できなくなっていた。
そして武道館という大きな目標が霧の向こうに見えたことによって、初めてのライブの高揚感の先にかつてあった、全てのバンドマンが一度は思い描いた一本道に、Theピーズは大きく遠回りしながらも戻ってきたのだ。
様々な事柄のツケを払い、落とし前をつける時が、Theピーズに来た。

今後Theピーズがどんな転がり方をしていくかは分からないが、これまでのように自分のままならない現状を重ね合わせながら聴くようなことはもうできないし、してはいけない気がしている。
そもそもこんな音楽の愛し方は不誠実であったかもしれない。
他人からもらった希望はすぐに温度を失い色あせていく。
諦めを携えながらでも、自分自身の希望を作ることでしかきっと明日へは進めないのだ。
私もある程度覚悟が決まりつつある。武道館がどんなに完璧なステージであっても、この煤けた青春を完全に清算しきることはできないだろう。
ただ、心の底から愛し、確実に体の一部であったバンドの「最期」を見届け、そして6/10に自分の足で踏みだす。