壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

the MADRAS 11/30 下北沢CLUB251 初ワンマンライブ備忘録

the MADRASの持ち曲があと100曲くらいあれば、まだこの幸せなライブが続くのに、と言うのが終演後の率直な気持ちでした。

 

既発曲が12曲、スターダストとエンドロールという橋本さん復活ライブから歌われている2曲、そして珠玉の新曲が4曲で計18曲。

the MADRAS現段階での総決算であると同時に、このバンドが未来へ繋がっているという希望、そして未来へ繋がって行くという意志を強く感じた素晴らしいライブでした。

 

最近加速度的にライブに行く回数が増えているのですが、この日は初めてライブハウスに入った時のように開演前はやたら緊張していました。

何回も後ろを振り返りながら早く埋まらないかな、とソワソワしたり、数十秒毎に時計を気にしたりと落ち着きのないことこの上なし。

最前列にも行きたいが常にバンド全体が見渡せる場所にいたい、という気持ちがこの日は特に強く、客席中央にあったテーブルに陣取り、反対側にいた外国の女性2人組のお酒の消費スピードにビビりながら開演を待つ私。

7時を十数分過ぎた所で客電が落ち、歓声の中ステージに上がるメンバー。遂に初ワンマンがスタートしました。

 

1曲目はアルバムと同様、幕開けはもうこれしかないという「ワンダー」。

歌詞の中、明日またきっとここで会えるよ、の「ここ」は、音楽が鳴り響いている今まさにここなんだ、と勝手に感動しながら丁寧に紡がれる歌声と演奏に聞き入っていました。

 

2曲目は「スタンド」。

初めてthe MADRASを聞いたのはフリーダウンロードシングルとして配信されたこの曲。イントロが始まった瞬間、ああ、このバンドだと感じたのが3年前でした。

サビと2番に入る間にバンドが溜める瞬間、木下さんが弾き倒すソロ、最後のコーラスの所が何回聞いてもたまらなく好きです。それはもちろんこの日も。

 

3曲目はthe MADRASの楽曲の中でも屈指の明るい曲調の「ハブファン」。客席からは自然発生的に手拍子も生まれました。

この辺りで緊張も解け始め、この特別なライブを心ゆくまで楽しもうというモードに変わっていきました。

 

この日初めてのMCと報告をはさみ、始まったのは(橋本さんの中で)懐かしい「スターダスト」と、続く「あの夏の僕ら」という最初期の楽曲。上田さんと2人で歌われた頃から、現在のバンド編成になるまでアレンジが変わってきたであろうこの2曲。

そんな歴史に思いを馳せながら、ゆっくりと身体をゆらしていました。

 

そして遂に演奏された「ルーザー」。個人的に最初のピークでした。「ホール」と甲乙つけがたいですが、この曲は最高です。

君は誰と笑うの、と繰り返す(最後の所loveかlaughか定かではないですが、laughの方が遠くから見ることしかできない感じがしてグッときます)、この世界では決してあなたと交われない孤独と疎外感を抱え、自分のことをエイリアンとすら呼ぶ主人公。

しかしそのストーリーが悲壮感だけでなく、夜空に月を探すようなある種の力強さに昇華されているのはバンドマジックとしか言いようがないでしょう。

 

リアルバースデー」はカップリングでありながらアルバムにも収録されており、バンドにとってもきっと大切な曲。

本当の誕生日、今の自分とは別の自分、ここではないどこかを探し求めてさまよう姿を、演奏が力強く肯定し。

「ルーザー」でも思いましたが、木下さんと安蒜さん2人のギタリストがいるのは凄くいい。

木下さんが一心不乱にソロを弾いている時に、安蒜さんが丁寧にコードを刻み、えらさんと共にバンドのリズムの手綱をしっかり握ることで曲の立体感が更に増している気がします。

 

「ホール」は空洞の中で響いているようなギターと、誰もいない空間で静かに漂うような橋本さんの歌声が重なり、静と動のコントラストが映える切ない名曲。

 

先の「ホール」が橋本さん復活ライブの1曲目なら、続く「エンドロール」はラストの曲。その時はピアノアレンジだったそう。

この2曲だけではないですが、共通するのは世界から断絶された、もしくは拒絶した私とあなたしかいない場所。

ミクロで近視的で、全てから守られると同時に遠ざけられるシェルターのような世界の中で、確かな何かを探す2人を否定するでもなく肯定するでもなく、その瞬間をスケッチした歌詞。胸の奥を掻き毟るようなアウトロのギターも素晴らしく、ぜひこのアレンジで録音した音源を聴きたい所です。

 

様々なことを乗り越えたアルバム制作を経て生まれたという新曲「アウェイク」。

theピーズの「トドメをはでにくれ」やフラワーカンパニーズの「吐きたくなるほど愛されたい」のような、そのアルバムタイトルを冠しながらそのアルバムには未収録、というタイプの曲ですが、先の例に漏れずこの「アウェイク」も名曲でした。

目を覚ましても夢のまま、というのは現実も夢のような美しさを持つという意味か、夢から抜け出せないという意味か。誰かに支えられ、また誰かを支えながら進む、というバンドの新たな宣誓のような曲は、えらさんのコーラスに彩られ力強い光を放っているようでした。

 

勢いよくドラムのカウントから始まる、バンドサウンド際立つ「リバース」、そして間髪入れず由緒正しいギターロックな名曲(さっきから何回名曲という言葉を使ったか、語彙のなさがただただ悲しい…)「スパークル」と力強い曲が続き、ライブもいよいよ佳境に入ります。

 

アルペジオから幕を開けるのはまたしても新曲の「エディット」。静かに始まり最後にエモーショナルなギターが炸裂する、どことなくチューインガムウィークエンドを思わせるの曲の後、橋本さんがメンバーに話しかけつつ橋本さん自身が語るスタイルの、この日初めての長いMCに入りました。

 

私は中学生の頃にブルーハーツでロックを知り、最初に行ったライブはハイロウズのものでした。彼らは毎年アルバムを出し、全国の大きいハコをくまなく回るワンマンツアーを行っており、バンドとはそういうものなのだ、と何となく思っていました。

しかし、アルバムを出す、ワンマンライブを行うということは、決して誰にでもできる当たり前の事ではない、ということを今回改めて知ることになりました。

メンバー1人1人が語るアルバム、ワンマンライブ、そしてバンドに対する強い思いを聞きながら、バンドを続けること、他人同士が苦楽を共にしながら作品を生み出すことの難しさ、尊さ、そしてその結晶を享受できることへの喜びと感謝を感じずにはいられませんでした。

 

どんなバンドも、人間という生き物が集っている以上、いつか必ず終わりが来ます。それはthe MADRASも例外ではないでしょう。

でも今だけは、永遠と言うあり得ない奇跡を信じていたい。

 

この日、下北沢だけでもいくつものライブが行われていました。きっと世界中でライブが行われ、バンドの数だけ奇跡があり、それを信じる人がいて。

そうである限り、時代とは関係なくロックンロールは鳴り止まず、バンドは転がり続けていくのでしょう。

 

次で最後のブロックだよ、という木下さんの紹介で始まったのは、the MADRASというバンドの始まりの曲であると言う「ロスト」。

憧れを汚してしまった、という歌詞が切なく胸にささります。

以前読んだ山川直人さんの漫画で、自分を1番裏切ってきたのは自分だ、という一節がありました。

他者からは推し量ることしか出来ませんが、きっと橋本さんもいくつもの挫折や苦悩を経験されたのだと思います。

ただ立ち止まりながらも、消えたくなる夜を超え、歩くことを橋本さんがやめなかったからこそ、この日the MADRASというバンドが存在し、「最果て真っ直ぐ見つめたら 世界はいつも綺麗だった」という力強い歌詞を、最高のメロディと演奏に乗せて歌う橋本さんに出会うことができたのです。

 

初めてチューインガムウィークエンドを聞いた時点でそのバンドは既になく、伝説の存在になっていました。

続く「ハピネス」も、「駄目になってしまった だけどきっと 続きがあるんだ」という歌詞で始まります。続きがある、次を信じられる、なんたる幸せなことか。

木下さんと安蒜さん2人が前に出てそれぞれのギターを鳴らした瞬間がこの日の個人的ハイライトでした。きっとこの演奏はこの日にしか出来ないはず。ライブアルバム出ないかな…

 

本編最後を飾るのは、1stシングルであり、やはりアルバムと同じく「デイドリーマー」。残る力を全て振り絞るような演奏、そしてステージに崩れ落ちながらギターを掻き鳴らす木下さん。アルバムリリースツアーのファイナルに相応しい大円団でした。

 

メンバーはステージを降りますが、もちろんもっと曲を聞きたい、厳密に言えば最後に「ラフ」を聞きたいという皆の思いが、決して予定調和ではないアンコールを求める手拍子に変わります。

 

the MADRASシャツとこの日発売のシャツに着替えステージに戻ったメンバーによる、微笑ましい促販コーナーをはさみ(えらさんほど詳しく、そしてシャツのコーディネートの仕方まで紹介してくれるMCは、後にも先にも服屋以外で聞いたことのないものでした)、始まったのはまさかの新曲「シュガーラッシュ」。

ノイジーで、オルタナで、圧倒的強度を持つメロディーで。これはもう最高としか表現しようがない。体が意志より先に動き出し、口から声にならない声が溢れ。こんな新曲があるなら、来たるべき2ndアルバムはとんでもない傑作になるのは間違いありません。

 

パシッと潔くかっこよく終わる「シュガーラッシュ」、そして手拍子に合わせ最後のメンバー紹介が行われた後、遂に始まる「ラフ」。1、2、3、4というドラマーの掛け声ほど素敵なものって中々ないですな。

それにしても歌詞を全文書き起こしたくなるような素晴らしい曲、そして完璧な演奏。

こんなバンドを独り占めするにはあまりにももったいない。少しでも多くの人に聞いてもらいたい。きっと生涯聴き続けることのできるCDが棚に1枚増えるはず。

 

こうして、特別な、そしてこれからもこんな夜が来て欲しいと心から願うことのできる、素晴らしいライブは幕を閉じました。

 

 

ライブから既に1週間以上が経過し、細部の記憶が少しずつ失われる中でようやく備忘録を書き終えました。書きながら思い出すスタイル。

それにしてもシュガーラッシュは良かった。そして終演後に飲んだビールは本当に美味しかった。

その熱覚めやらぬまま、次の日私は新宿の紀伊國屋の上にあるディスクユニオンで人生で1番高いレコード(クロマニヨンズの4thアルバム)を買い、伊勢丹で彼女へのクリスマスプレゼントを買い、トドメに秋葉原でアホ程高いレコードプレーヤー一式を購入し。

クレジットカードの引き落としに戦々恐々としながら東京を後にしたのでした。

 

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