壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

台風クラブ/ピーズ 5/3 渋谷ラママ 備忘録

 生まれて初めて、ピーズの音楽を一切の雑念なく楽しむことができたライブだった、 

 磔磔ライブの翌日、10時からイープラスで本公演の追加チケットを販売することを知った。おそらく即完するだろうが、もう一度台風クラブを見たい一念で祈りながらスマホ前で待機した。その結果、奇跡的にチケットを入手することができた。

 取れたのは良かったが、私は渋谷や新宿のライブハウスは怖くて行ったことがなかった。ライブハウスそのものが、というよりも終演後にあんな物騒な街(というイメージが強くある)をほっつき歩くのが恐ろしすぎるためだ。

 ただ、台風クラブはもちろんピーズも私の人生の大きな部分を占めた大切なバンドだ。ハルさんの弾き語りは何回か見に行ったが、バンド編成はそれこそ武道館以来。腹を決め、渋谷駅からラママへの安全そうな経路をネットで調べるなど、入念な準備を行った。その甲斐あって、当日は無事道に迷った。ビルの出口が多すぎる。

 整理番号はもちろん最後の方。道路に出てファンと談笑していたハルさんを遠目に眺めながら、のんびり入場を待った。

 コロナ禍ということもありフルキャパではないようで、ラママ内には適度なスペースが。隣のお姉様方の集団がずっと喋ったりビールを落としたりしていたこと以外は過ごしやすく、ステージがよく見える段差部分に陣取った。

 開演が近づくにつれ、この日も胸が締め付けられる感覚があったが不快感はなし。ライブを楽しみにできる心が確実に戻ってきていることに安堵した。

 台風クラブのステージが始まる。磔磔ではやらなかった「飛・び・た・い」が嬉しい。「日暮し」も「ホームアローン」も、7インチで聞くのとはまた違った感慨があった。スピーカーの近くにいたこともあり、磔磔の時に感じたバラバラ感はあまり感じず。時折右耳だけふさぎ、伊奈さんのコーラスのメロディーを追ったりしながら楽しんだ。

 石塚さんのMCに、台風クラブはピーズみたいと言われる、影響を受けていないはずはないが、それがバレているようでは、というくだりがあった。確かに、どこか投げやりな歌詞や佇まい、優れた演奏をする3ピースということで安易に比較してしまっていたかもしれない。ただそれは台風クラブの音楽がピーズに似ている、という表層的なことではなく、一生心の大事な部分にいる(そして簡単には出て行ってくれない)バンドそのものとしての存在の近さ、という意味合いが大きいと個人的に強く感じる。ピーズの代替として台風クラブを聴いているのでは決してない。

 台風クラブの新曲群は、メロウさよりも激しさに振り切った曲が多かった。来るべき2ndアルバムに収録されるであろうこれらの曲は、レコードでどのように響くだろうか。それはきっと○○ぽいではなく、台風クラブとしか言えないものになるはずだ。

 後攻めのピーズは、予定時間を前倒しして演奏を始めた。とにかくハルさんもアビさんも楽しそうだ。清々しい軽薄さから見え隠れする影、ただそれに拘ってる時間はないと言わんばかりに歌うしゃがれた声。力任せな爆音ではなく、これしかないというジャストな音。

 ライブの感想は、心底楽しかったという一言に集約される。正直、直近のCD2作はあまり熱心には聞いていなかったのだが、それらの曲どれもが素晴らしかった。必要以上に歌詞に引っ張られず、ロックにはそうあって欲しい、という理想そのものの様な演奏。昔の曲も嬉しいが必ずしも必須ではない。theがついたピーズを思い出したのは「無力」でシンちゃんのダミ声コーラスが聞こえず寂しくなった一瞬のみ。今を生きているバンドが慣らす音に酔いしれた。

 普段はどう盛り上がればいいか分からず、いつも腕組みでウンウンうなづくスタイルでライブを見るのだが、この日は口は閉じたまま思うままに飛び跳ねた。思うままといってもピョコピョコするだけだが、この数ミリ地面から逃れられるエネルギーがどれほど素晴らしいものか、このコロナ禍で嫌というほど味わった。

 「yeah」はもう本当に最高だった。しばらく聴いておらず、正直イントロが鳴る前まで忘れていたが瞬間でスイッチが入った。

 振り返れば、これまでピーズの曲を聞く時は、いつも自分のしんどかった過去がセットで目の前にあらわれた。それはピーズの音楽を必要以上に慰めとし、あわよくば赦して欲しい、救って欲しい、肯定して欲しいという健康的とは言えない寄りかかり方をしていたように思う。ただ、そういった怨念のようなものは、あの武道館の日に浄化され、きちんと一区切りできていたのだなと感じた。

 終演後ドリンク引き換えに行くと、カウンター前で伊奈さんがソフトクリームを食べているのを見かけ、迷わずを注文。ライブハウスで食べるそれは特別おいしかった。コーンの下の方の紙をうまく剥がせず、ゴミ箱も見つけられなかったため、やむなくズボンの後ろポケットに入れ、それは帰宅時に当たり前に数多のカスになってこびりついていた。

 もう一つ、物販でハルさんの即席サイン会が開かれていた。通販で既に手にしていたが、サインをいただく用にもう一枚レコードを購入。新たな家宝が増えた。

 興奮冷めやらぬまま帰途に着く幸せを久しぶりに感じることができた。妻に電話し、楽しかった旨を話す。カバンを持ってこなかったため、裸のレコードを抱えて電車に乗る。ドアが閉まる音に合わせ、大きくため息をついた。窓の外の灯りを眺め、いつしか目を閉じ、気づけば私は終点の東京にいた。無事乗り過ごした様だ。