壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

サニーデイ・サービス「いいね!」新しい春の記録

バンドという枠組みから離れ、解体・再構築を繰り返した直近のアルバムの流れとは一線を画する、青春の記録としか表現しようのない35分29秒のロックンロールが、3月19日に突然手渡された。

柔らかなメロディ、優しい歌。ただ時代から目を背けた幻想の世界の歌、という印象は微塵も受けない。

「もし夜が来たなら ロックンロールを この体全体で表現してみたい」の歌詞通り、3人組のバンドが3人で音を鳴らす、という最もシンプルな形で世界と対峙したアルバムなのではないか、と感じる。

そう、ドラマーの大工原幹雄さんが正式なメンバーとして加入し、サニーデイはまた3人のバンドになった。

このアルバムには年明けに発表された「雨が降りそう」が収録されていない。たしかアルバムのリードトラック、とアナウンスされていた気がするが…。

1月のOPPA-LAで披露された新曲の内、アルバムに収録されているのは「春の風」のみであるし、今回もギリギリまで曲変更が行われたことは想像に難くない。

あの日のライブのヒリヒリとした感触は凄まじかった。生き急ぎ、断崖絶壁に向かって走るような。しかもそれが破れかぶれの疾走でなく、笑顔で突っ走る怖さがあった。

その暴走を生み出すエンジンは大工原さんのドラムだった。最初にそのドラミングを見た時、サニーデイは10代のパンクスをサポートに迎えたんだな、と本気で思った。ビートを刻むというよりも、剥き出しの心臓が目の前で鳴っている感覚。後ろから曽我部さんを睨みつけながら叩く(ように、ではなく本当に睨みつけていた)崩壊寸前の「セツナ」は息を飲むしかなかった。

この日はまだ大工原さんはサポートで、後日正式に加入するというアナウンスがあった。アルバムも4月リリース予定だったはずだが、延期ではなく前倒しというのも凄い。

アルバムタイトルの「いいね!」もある意味軽く、しかし何かを肯定するという正のエネルギーに満ちた言葉である。

過去の再現などからは産まれ得ない、バンドに訪れた何回目かの青春を余す所なく記録した音楽。

「雨が降りそう」は喪失の悲しみを歌っており、それは否が応でも丸山晴茂さんの不在を想起させる。名曲に違いないが、このアルバムに収まる場所がなくなってしまったのではないか。

 

「心に雲を持つ少年」の時点でワクワクと喜びがいきなり最高潮に達する。タイトルはやっぱりスミスからだろうか。曲終わりのピアノで「東京」を思い出す。

「OH!ブルーベリー」でふと顔を覗かせるですます調に思わず頬が緩む。

少し投げやりな「ぼくらが光っていられない夜に」。それでもメロディはたゆたうような明るさで溢れている。

ライブでも聞いた4曲目の「春の風」がたまらなく好きだ。真夜中なので我慢したが、サビで叫びたくなる。アルバムの中で、一瞬だけ死がよぎる歌。

続く「エントロピー・ラブ」で、もういてもたってもいられなくなる。歌詞が良すぎる。

「日傘をさして」はバンドの演奏が終わった後の最後20秒のギターが優しい。

「意味がなくたって生きていけるように祈ってる」と歌う「コンビニのコーヒー」。誰にだって生きている意味がある、という一見優しくも生に理由を強制する言葉を超える祈り。ただ生きていたいだけなのだ、どんな時代であっても。

「センチメンタル」のあじさい色、という言葉と「春はとっくに終わったのにね」のリフレインにドキッとする。ギターソロ前に曽我部さんが「間奏」と言うのが素敵。

ラストの「時間が止まって音楽が始まる」。

「いつか戻れるように」「いつか戻れますように」という切実な祈りを経て、また一曲目から再生する。

やめ時が分からないアルバム。この時点でもう午前3時だ。

 

絶望が存在することと、それに飲み込まれるのは別の事象だ、というメッセージを勝手にこのアルバムから受け取った。

新生というよりも、転がり続けることを選んだ、という言葉の方がしっくり来る。サニーデイ・サービス、その名前を口にするだけで少し勇気が生まれるロックバンド。

もうしばらくすればインタビューやプロのレビューが上がるだろうからそれを待つとして、それまでは自分のこの勝手な気持ちを乗せながらアルバムを聴いていこうと思う。