壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

サニーデイ・サービス 10/29 横浜ベイホール 備忘録

 去年のリキッドルーム以来丸1年ぶり、映画を見てからは初めてのサニーデイ。時間は本当にあっという間に、何も残さず過ぎていく。あの日も精神状態は良くなく、サニーデイのライブはこれで最後でいいかなと思った記憶があるが、その気持ちは今日まで変わらず、あまりライブを楽しむ心の準備は出来なかった。昨年と違うのは、今や私より曽我部さんが好きになった(ように見える)妻と一緒だということだ。流石にドタキャンする勇気も出ず、重い体を引きずって横浜にたどり着いた。空も青く深呼吸するにはもってこいの天気だったが、マスクを外す気にはなれなかった。中華街で限界まで腹を満たし、公園を散歩し、船を見学するなどし、開演ギリギリに横浜ベイホールに着いた。

 渋谷クアトロを彷彿とさせる柱がそびえ立つライブハウス。柱がステージに被らないギリギリの場所を探している間に客電が落ち、SEもなくメンバーがステージに上がる。

 ツアーは現在進行中で、何の曲が良かったなどのネタバレはいくらネットの隅と言っても本来すべきではないが、ここに書いておかないと記憶から完全に抹消され、自分の中で本当になかったことと同じになってしまうため、以下順不同の備忘録として。

 

 コードカッティングが途切れ、歪まないギターソロがリズムに乗った瞬間、あっという間にステージに空隙が生まれ、命綱が切れ漂う宇宙飛行士のような孤独を感じた。ドラムとベースのみの時にはそんなこと全く思わなかったため、理由は分からない。

「魔法」「夜のメロディ」という「LOVE ALBUM」期の曲を今の3人で演奏するとこんなに肉体的になるんだ、と感じた(当時のライブを見たことがある訳ではないが)。1度解散したことなどまるでなかったかのよう。ライブ中何回もメンバー紹介があったが、この3人であることは当たり前ではないんだな、ということを改めて。

 新譜ブロック、アコースティックブロック、懐かしの曲ブロックを経ての「TOKYO SUNSET」が沁みた。不必要に他人を傷つけ自分も無意味に傷ついたオリンピック前後の記憶が、曲が進むにつれて加速していくドラムに乗って蘇った。

 「DOKI DOKI」は1番好きなアルバムという訳ではないが、ライブで聴くとどの曲も良かった。「ロンリー・プラネット・フォーエバー」が最高だった。

 「春の風」の最後のジャーンの部分、大きい車の前に飛び出したような向こう見ずの衝撃と爽快感が凄かった。

 かみしめるように繰り返される「青春狂走曲」のサビ。今の所はまあそんな感じなんだ、という一節がいつも以上に響いた。どんな悪い状態でも、それは今の所は、なのだ。どの曲もそうだが、「青春狂走曲」は今生まれたばかりのような瑞々しさをいつも携えている。

 3人が向き合い、曽我部さんがギターをかき鳴らす度に妻が笑顔だった。アンコール最後の「セツナ」の時はずっと。周りを見渡すと皆笑みを浮かべていた。私の心が貧しいせいで、フェスなどでセッションが始まるとこの時間でもう1曲聴けたのになどと思ってしまうが、今日は心穏やかに見れた。どれだけ離れていても聴こえる、ドラムのリズムでかろうじて曲の形を保っているような爆音が、ステージの中央、とても狭い空間で生まれるのを眺めていた。

 大工原さんのドラムは本当にいい。物をあんなにも全力で引っ叩いていいんだ、という原始的な喜びがある。曽我部さんの声も大きい。

 「雨の土曜日」、皆嬉しそうだった。曽我部さんの笑顔は人を元気にさせる。私もライブが始まる前と比べて体調がかなり良くなった。

 考えれば、ライブの帰り道で感想を誰かと言い合うなんてことはこれまで全くと言っていいほどなかった。ライブの熱は誰にも話さず心の中で独り占めするものだと思っていたが、共有できるのも悪くはないな、と思った。妻は「海辺のレストラン」「花火」が良かったらしい。外の涼しさで身体が少しずつ日常に戻っていく。その後1本早い電車に間に合わせるべく全力疾走したため、ライブより汗をかくことになった。

 思い出せるのは今の所これくらい。多分33曲、3時間超えのライブ。妻と一緒ならまたサニーデイのライブを見に行きたいな、と思った。