壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

中村佳穂/grapevine 3/1 赤坂BLITZ


素晴らしいライブでした。

2組とも最高だ、という前提で、音楽に良し悪しはなくとも音楽の才能と質の優劣は確実にあるのだな、という事を感じながらライブを観ていました。

中村佳穂はアルバムは持っていますがライブは初めて。

感想としては、凄いものを見たというか圧巻でした。

一曲目、これ何の曲だったっけ、と考えているうちにgrapevineのalrightの一節を歌い始めた中村佳穂。
その瞬間全身に鳥肌が立ちました。
ああ、才能とはこういうことなのか、と。

彼女が歌を紡ぐというよりも、歌が彼女に引き寄せられる感覚。
パッと思い出したのはZAZEN BOYSのライブでしたが、あちらはリズムを向井さんが統率している感じですが彼女はリズムを手のひらで転がしているというか遊ばせているというか。

とにかく小節に囚われない、リズムに乗せて歌われるのではなく彼女の歌を成立させるためにリズムが後から付いてくる、そんな印象を受けました。

最近私は遅くても高校生の時に終わらせておかなければならなかった、自身の才能のなさとどう向き合うか、という問題にぶち当たっていたのですが、彼女のライブを観ながら最高の音楽を聴ける幸福と同時に一種の絶望感を感じていました。
どんなに頑張って曲を作り、ツアーを重ねてもこの才能に触れることすら出来ないバンドが無数にいるのだな、と。

1時間に満たないライブは文字通り一瞬で終わりました。眩い才能に呼応するように最強の演奏を鳴らすバンド。
特にドラムが凄かった。凄いという感想しか出てこない。
バズるという浅はかな言葉は心底嫌いですが、こんな音楽を皆放っておく訳がない、絶賛されるのも当然の音楽でした。


ステージの転換時、私はこれまで見たgrapevineのライブを全て忘れてしまったような感覚に陥りました。

確実に食われる。
こんな圧倒的なステージに、後攻めのバンドは、grapevineはどんなステージをすればいいのか。

この時点で思っていたのは、わざと外したセトリを組み、ビールで酔っ払いながら自虐的なMCなぞ頼むからしないで欲しい、ということでした。
破れるにしても真っ向から、ロックバンドとしての姿を見せては欲しいという、まあ今日のライブが終わってみれば、何様なんだとしか言いようのない事を考えていました。
今までgrapevineの何を見てきたのかと恥じ入る次第です。

アルバム1曲目のアカペラをSEにgrapevineがステージへ。
この時点で中村佳穂を引きずりに引きずっていた私には、grapevineよりも彼女のalrightの方が響きました。

ただ、3曲目の「graveyard」で目が一気に覚めました。

なんて盤石な演奏。なんと美しいメロディ。
それはベテランの貫禄だとかファンの贔屓目などでは断じてなく。
というかベテランになればこんなライブが出来るのなら誰も苦労はしないでしょう。

天才メロディメーカーとギタリスト、そしてボーカルを擁するバンド、grapevine
赤いライトに照らされた彼らは紛う事なき最強のバンドでした。

私の大きな勘違いは、両バンドのドラムに力量差があるのでは、と思ってしまっていたことでした。
中村佳穂のドラムスは彼女に寄り添う為のリズムを、亀井さんは楽曲に寄り添う為のリズムを刻み。
それぞれのバンドに適した音が鳴らされていただけでした。

「雪解け」の荘厳さ。
「ミチバシリ」のイカれたアレンジ。
「heavenly」からの「豚の皿」で一気に意識が飛ぶ感覚。
「afterwords」は久々に聴きましたが、この曲か入っていたアルバム(twangsでしたっけ?)は何十回も聞いたな、と思い出しながらその演奏に浸り。
そしてトドメはこれぞ王道ロックバンドと言わんばかりの「fly」。

そして白眉は本編ラストの「すべてのありふれた光」、そしてアンコールの「光について」。

最先端の才能と感覚を持つ中村佳穂の前で、grapevineはしっかりと「歌モノ」の音楽が有する力を見せつけました。

「 君の味方はここで待ってるよ」と手を広げながら歌う田中さん。
そして「僕らはまだここにあるさ」と亀メロの中でも屈指の美メロに乗せられた言葉が、曲のラストのみでパッと照明が付くステージで発せられた瞬間に涙腺が崩壊。
こんなにも救われる、と感じることが他にいくつもあるでしょうか。

ライブで泣くのはチャットモンチーの武道館以来ですが、泣き止んだ後死ぬほど恥ずかしいのでそろそろなんとかしたい。

現在のシーンのトップで音を鳴らす中村佳穂に対して、十何年もの昔に生まれた曲が純度を一切失わずに鳴らされ、そして同時に現在生まれた曲が過去のイミテーションではなく確固たる輝きを有する事を証明してみせたgrapevine

紛れもなく天才である2組のアーティストのライブを見ることができて幸せです。


アンコールのラスト、中村佳穂を迎えて歌われた「KOL」には笑いました。
親戚の女の子にするような会釈をするアニキと、歌い出せば曲を一瞬で彼女のオリジナルにしてしまう恐るべきシンガー。

最後まで素敵な夜。凄いものを見させていただきました。


それにしても久しぶりにブログを更新しました。
酔った状態で書いた文はすべからく恥ずかしいものになっているので多分二度と見直さないでしょうが、今日からはもう少しライブの感想とかを書いていきたいです。