壊れる少し手前の永遠

好きなバンドについて書いていこうと思います。

the MADRAS「colors」と自分語り

マドラスを知った、聴き始めたきっかけは、ボーカルが元チューインガムウィークエンドの橋本さんだから、という理由が100%だ。

ただ、昔好きだったから、という理由だけでバンドを好きで居続けるのは難しい。マドラスは私にとってチューインガム以上に大切なバンドになり、その理由はマドラスの曲が良いからに他ならない。

では私は何をもってマドラスの曲を良いと感じるのか、この機会に自問自答してみたいと思う。

例えばアイドル的な「好き」という感情。大好きなボーカリストが歌っているからそれだけで満足というものだ。そんなことはない、私は純粋なミュージックラバーだと言い張りたいが、そういった面があるのは否めない。しかしそれだけではないとも信じたい。昔好きだったけれど新譜をほとんど聴いていないバンドもあるし、やはり楽曲の好みはあるだろう。

他のバンドと比べて、という線はどうだろうかと考えたが、今現在積極的に色々なバンドの音楽を聴いている訳ではなく、しっかりした評価軸を持っているとは言い難い。もちろん中高生のころは片っ端から聴いていたが、それは私の手が届く範囲にそういったバンドしかなかった、という面がある。同様の理由でマドラスが他の現行バンドと比較してどうかという評価も私にはできない。

演奏のテクニカルな面が好きだ、と言えればいいのだが、いまだに音楽理論はさっぱり分かっていない。ギターソロの時に木下さんが前に出てくるのはグッとくるが、自分の中で分からないことを分かったフリをするのは出来るだけ避けたい。

歌詞が好きという理由は自分の中でかなりしっくりくるのだが、歌詞はメロディと不可分だとも思うし、それに歌詞がこうだから好きだ、という明確な基準もあやふやな気がする。メッセージの有り無し、歌詞の中に社会が映し出されているかどうかで優劣が決まってしまうものではないし、結局自分の中の好みでしか判断できない。

そうなると、橋本さんが好きだ、という以外の理由はかなり曖昧なモノになってしまう。歌詞が、メロディが、バンドの佇まいが、というフワッとした理由が複合的に積み重なっているのだろう、という類推しかできない。好きなものの理由を明確にできないことに少しモヤっとするが、無理に白黒つける必要があるわけではないし、分かりやすい理由はなくても良い、と今は思うようにしている。

それでも、マドラスのシングル「colors」が好きだ、と声を大にして言いたい。

「カラーズ」の曲終わり、最後まで聴こえるのはベースの音だ。いいと思った曲で最後までベースの音を出していたい、とえらめぐみさんの発言があった気がする(MCだったか、何かのインタビューか記憶があやふやな部分があるが)。この曲が最高である理由は、「バンド自身がこの曲を信じているから」という点に収束するのではと感じている。

表題曲「カラーズ」はバンド初の木下さん作詞作曲であるというエポック的な要素もある。コロナ禍でバンドが動かなくなった2020年初頭に書かれ、それ以降のライブでは必ずと言っていい程演奏されてきた楽曲である。ただ「カラーズ」の良さはそういったストーリーがなくても成り立つし、むしろ装飾したストーリーに落とし込まない方がいいとすら感じる。

個人的には、レコ発ライブのMCで語られた「カラーズ」の歌詞は変えません、と熱く伝える木下さんに対し、「一度聴いてみないと…」と真っ当な返答を橋本さんがした、というエピソードがとても好ましかった。なんてアンチドラマチック。

「フェザー」はキーボードも入った、2020年以降のマドラスの一つの完成形の記録。丁寧に配置された演奏に、メロディを手放さぬよう優しく歌われたボーカルがそっと重なる。

しかしレコ発で演奏された「フェザー」は、更なる進化を遂げているように感じられた。メロディの正確さを重視した音源とは異なる、ぶっきらぼうに、吐き捨てるかのように放たれるボーカルと、それに付随して加速する演奏。ありふれた言葉にしか出来ないのが悔しいが、あのヒリついたステージは本当に素晴らしかった。マドラスには何とかライブ盤を作って欲しい、と切に願っている。

そしてカップリングの「ルーザー」はアコースティック編成での録音。木下さんの病気により延期された新年会ライブはこの編成でのワンマンだったが、記録として残されていないのが大きな損失であると感じるほど素晴らしい演奏だった。こちらも今すぐにでも全曲アコースティックアレンジ版のアルバムを出して欲しい。

このシングルが、ライブに来ている客にだけ行き渡ればいい、といったファンアイテムとして生み出されたとは到底思えない。売れて欲しい。売れなければいけない音楽である、などと言うつもりはないが(音楽の良し悪しと売り上げに相関はないことは自明である)、バンドに持続可能性をもたらす富が生まれて欲しいと切に願っている。